2005年3月3日

科学とは世界的な詐欺のことか

WECPNLの欺瞞 沖縄基地騒音問題

和歌山市  医師  汐見文隆


  2004年12月11日、突然、沖縄の「普天間基地爆音訴訟弁護団」から、1月26日(水)午前に那覇市で、基地の航空機騒音、特に低周波音の問題についてご教示いただきたいとの依頼を受け、はるばる義務を果たしてきた。

 そこに至るにはいくつかの伏線がある。
@1975年3月、関西国際空港建設問題の騒がしかった当時、第34回公害教室「航空機騒音」で京都大学工学部(衛生工学)山本剛夫教授を招く。
A1995年〜199去年、沖縄県「航空機騒音による健康影響調査」 (委員長一山本剛夫京都大学名誉教授)
B1996年11月、第16回日本環境会議沖縄大会  報告「低周波音公害と基地」  汐見 文隆
C1999年6月、「沖縄の米軍航空機による低周波音公害調査 一航空機音圧 公害による身体被害の総合的評価に向けて−」(沖縄環境ネットワーク)
D 2001年度、2002年度、2003年度 「低周波音測定」(沖縄県)  (今回、「普天間基地爆音訴訟弁護団」から初めて入手した)


 1996年の日本環境会議沖縄大会で、航空機騒音に低周波音の概念を入れなければ正しい評価ができないことを提唱したのは世界最初のことかもしれない
 それを受けて、大会を主催された宇井純 沖縄大学教授の指導で、後藤哲志氏(沖縄環境ネットワーク)が普天間飛行場のヘリコプターを中心に調査・測定を行った結果、低周波音を主とするヘリコプターの飛行音は、戦闘機の騒音よりも遠く迄届くこと、従って音の被害範囲が広くなり、その速度の遅いことと相まって被害を受ける時間も長くなる。その被害を騒音(A特性)のみで評価することは到底無理であることが明白となった

 これを受けたのであろうか。Dの普天間基地、嘉手納基地の低周波音測定を沖縄県が実施したのは、沖縄県らしい素直さである。日本の他府県ならなかなかこうはなるまい。測定機械がない、経験がない、どこもやっていない、等々、言を左右にして応じないであろう。こんなしんどいことをやってみても、行政には一文の得にもならない。面倒臭くなるだけである。そこに住民の姿はない。

 実はAの4年間の「航空機騒音による健康影響調査」も、こんな面倒なことをやった沖縄県に敬意を表したいが、もっと評価すべきことがある。この調査当時には騒音(A特性)の概念のみがあって、周波数の概念がないため、調査データには数々の矛盾点が出ている。こういう場合、企業は勿論、国やその他の行政でも、この矛盾点を隠したりごまかしたりして報告書を作っているのがむしろ”しきたり”となっている。ところが沖縄県の調査報告書は、矛盾を包み隠さすそのまま記載している。実は山本教授は偶然私の大学の2年後輩で、京大学生寄宿舎南寮で同じ釜の飯を食った仲であった。彼の正直さがここに生きている。もし理屈が合うように変にいじくり回されたら、せっかくの膨大な調査が無駄になってしまうかもしれなかった。
 例えば、[防音工事の効果]− 24戸・算術平均−1999年 沖縄県
    ※適切な防音工事を施した場合には、騒音レベルを30dB程度
      低減させるほどの物理的効果をもたらしうる。
    ※家屋防音工事は、生活実態上航空機騒音の被害を軽減することにはなっていない。


 騒音は確かに低減させるが、生活実態上では被害は軽減しない。つまり、騒音レベルは実際の生活とはあまり関係なく、防音工事は無駄ということである。
 騒音(A特性)をもとにしたWECPNLでヘリコプター主体の普天間基地と戦闘機主体の嘉手納基地とを対比すると、WECPNL80〜85dBについて

  [たいへんうるさい]   約30% 対 約10%  その他の項目も大差

 そもそもWECPNL(加重等価平均感覚騒音レベル)をマスコミなどで分かり易く「うるささ指数」と呼んでいるのが根本的な間違いである。これは「やかましさ指数」であって「うるささ指数」ではない.航空機騒音は「うるさい」がぴったりかもしれないが、WECPNLは騒音、つまりやかましさの表現だけであって、「うるささ」を表現するものではない。基本的な欺瞞行為である
 この奇怪さは、沖縄県の1997年度の「児童・生徒の生活と健康に関する調査」でさらに顕著となる。

家での航空機騒音の程度 K>F>N [暴露群]
 嘉手納基地…K
 普天間基地…F
[非暴露群]
 南部地域……N
寝不足感 F>K≒N
一般的疲労感 F>K≒N
身体不調 F>K≒N
授業中の騒音への反応 K≒F>N

 騒音(WECPNL)だけではKがだんトツだが、被害はそうはならない。
 正直に世界中のでたらめさを教えてくれた沖縄県に感謝するばかりである。

 WECPNLは国際基準で長年大手を振って通用している。それを世界の専門家は一向に是正しようとしない。この方が企業にとって便利で都合がよいからである。学会というものは神聖なものと信じられている。医学関係なら間違いはやがて人命に関わって来るから、どこかで正しいものに訂正される。しかし、工学関係の学会では、会員に企業関係者が大勢入っており、企業の損になる間違いは速やかに是正されるが、企業の得になっている間違いは谷易に是正されない。火中の栗を拾おうという奇特な人はなかなか出てこず、長年そのまま放置である。


 昨年の環境省の低周波昔に対するインチキ極まる“参照値”など、日本騒音制御工学会のお墨つきということになっており、学会内部での反発の声は外には聞こえてこない。学会だから正しいなどというのは余りに単細胞である
 原子力の問題では、私たち市民はこの事をいやというほど教えられている。


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