沖縄「普天間爆音訴訟」控訴審判決

低周波被害を初認定

飛行差し止め請求は門前払い


 連日の暑さで、くたばり気味な今日この頃、夏の花百日紅もそろそろ盛りを過ぎ始めたような2010/07/29沖縄「普天間爆音訴訟」控訴審判決があった。
各紙は以下のように報じている。

琉球新報 低周波被害を認定 普天間爆音訴訟 控訴審判決

沖縄タイムス 低周波被害を初認定 普天間爆音控訴審 飛行差し止め棄却 賠償2.5倍 原告上告へ「世界一危険」と言及

赤旗 「普天間は世界一危険」 基地爆音訴訟 ヘリ低周波被害初認定

時事通信 米軍ヘリ低周波被害を初認定=賠償額2.5倍−普天間爆音訴訟控訴審・福岡高裁支部

朝日新聞 ヘリ低周波音による被害を認定 普天間爆音訴訟

読売新聞 普天間騒音の賠償基準2倍に・・・高裁那覇判決

毎日新聞 普天間爆音訴訟:国の賠償を倍増 福岡高裁那覇支部

中日新聞 普天間賠償2倍超、3億6千万円 高裁、騒音対策を批判


 各紙を基に判決内容を箇条書きに羅列してみると、

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の周辺住民約396人が米軍機の騒音で被害を受けているとして、国を相手に@夜間・早朝の飛行差し止めとA損害賠償などを求めた「普天間爆音訴訟」の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部河辺義典裁判長はは29日、賠償総額を約1億4600万円とした一審判決を変更し、2.5倍の3億6901万5174円の支払いを国に命じた。

@米軍ヘリコプターから生じる特有の低周波音も基地被害として初めて認めた。

A一審では退けられた低周波音と被害の因果関係は認めた。

B飛行差し止めについては、一審と同様に「第三者行為論」を適用して棄却。

C違法な爆音侵害を除去・予防するために住民側が求めていた騒音測定については退けられた。

D国が主張した「危険への接近」法理は全面的に退けた。

E飛行差し止めや将来分の損害賠償の請求は一審同様に退けた。

F国の防音工事は限定的で、被害を根本的に解消していないと国の姿勢を批判。原告全員がうるささ指数(W値)75以上の区域内で会話や睡眠といった生活利益が侵害されているとし、騒音被害を認定した。

G賠償額はW値75以上は1日200円、同80以上は1日400円でそれぞれ2倍に引き上げられた。

H将来分の請求については退けた。

I普天間飛行場の常駐機は低周波音を発生しやすいヘリやプロペラ機が中心と指摘。

J低周波被害の原理は未解明だが、ジェット機が中心の米軍嘉手納飛行場(嘉手納町など)と比較した沖縄県の調査を踏まえ、騒音被害に含まれると言えるとし、被害として認めなかった一審の判断を変更した。

K沖縄国際大のヘリ墜落事故で住民の精神的苦痛が増す中、国は抜本的な騒音対策を取らず、午後10時以降の夜間飛行を原則制限する日米の騒音防止協定が形骸(けいがい)化しているのに適切な措置を取っていないと批判。

L1人当たりの賠償額の基準は一審の倍が相当とした。

M国が防音工事を実施した原告については、賠償額を減額した。


 この判決で、注目すべきは、IJを基に「1審は騒音被害への賠償は認めたが、低周波音の被害は認められないとした。」が、@Aを在日米軍基地の騒音被害において「低周波音による被害を認めた」事だ。これは、同時に形はどうであれ、「低周波音と基地騒音被害の因果関係」を認めた点でも画期的なことである。

 さて、賠償総額を約1億4600万円とした一審判決を変更し、2.5倍の3億6901万5174円の支払いを国に命じた。賠償額を2.5倍にしたことを見出しに持ってくる新聞もあるが、これは全くお門違いの認識であると言えよう。そもそもが、その算定基準は「賠償額はW値75以上は1日200円、同80以上は1日400円」でそれぞれ2倍に引き上げられた、訳で、即ち、一審では、「賠償額はW値75以上は1日100円、同80以上は1日200円」、と言う、爆音下で過ごす日々に対する賠償が子供の小遣い程度の信じられないような金額である。ではその状況が今回の訴訟の対象としては、ひとまずどれだけ続いたかを推算してみると、

賠償額日額平均300円として*396人=賠償日額118,800円 
369,000,000(3億6900万)円÷118,800円=3106日≒8.5年

 と言うことになり、ひとまずこの8.5年分の低周波音に依る苦しみの代償と言うわけで、それは、個人としては、300円×8.5年×365日=930,750円となり、この100万円前後の金額が低周波音被害の代償と言うことになる。

 もちろん、そもそもからして、爆音の苦しみの代償が1日につき200円とか400円等と言う金額などで報われるモノではなく、原告団の主眼はあくまで、

 「夜間・早朝の飛行差し止め」と言うことであり、「判決後、原告側が那覇市内で開いた記者会見。普天間爆音訴訟団の島田善次団長は怒りを隠さず、上告する意向を示した。判決が従来の基地騒音訴訟同様、騒音の違法性を認定しながら、その音源となる米軍機の運航については「国に制限する権限がない」との理由で飛行差し止め請求を退けたからだ」毎日新聞

 「控訴審判決を受け、住民側は飛行差し止めの実現に向けて最高裁に上告する方針だ。これまでの訴訟同様に、賠償金の支払いだけでは根本的な解決策にならないのは明白だ。違法な米軍機騒音をなくすには、司法が人権の砦(とりで)として、被害を正面から受け止め、国に対して積極的な判断を示さない限り、米軍基地周辺住民の「痛み」は続く。」沖縄タイムス

 ともあれ、一度稼働してしまった施設・設備はそれが大きければ大きいほど、個々人に対しては微々たる賠償金で解決しようとするしかないのである。現実としてはそれも適わない状況が低周波音問題においては多々ある。そうした問題に対する一番の解決法は、とにかくそもそもの低周波騒音源を造らせないことである。これは言うまでもなくエコキュートにおいてももちろん風力発電設備においても言えることである。ともあれ、この200円や400円が低周波音被害の相場にならなければ良いのだが。


 沖縄基地騒音問題は別途嘉手納爆音訴訟がある。


 そして、この判決は本来「静かな騒音」である低周波音騒音被害そのものにおいても広く因果関係を認めた訳ではなく、インチキ指数ではあるが航空機騒音に使うW値が75以上と言う、既に明らかに騒音だけでも既に明白に環境基準(環境省が定めた環境基準では、住宅地を中心とする地域はW値70以下と定めている。)を上回る異常騒音環境を踏まえて上のことであると思われる。こうした点から見ると、今回の判決を基に、これまでの低周波音被害や風車騒音問題に於いても騒音被害が認められるか、となると?????…としか言えない。

 従って、低周波音被害が今回の判決で”市民権”を得たなどとは私は思っていないが、完全に”黙殺の音”であった低周波音被害が条件付きではあれ、少なくとも完全に黙殺し得ない「音」になったことは低周波音被害としては、ひとまずは多いに喜ぶべき事であろう。


 沖縄タイムス 2010/08/13

 国上告せず 賠償確定 普天間爆音訴訟 原告10人除く

 普天間爆音訴訟で、約3億6900万円の支払いを命じた福岡高裁那覇支部判決に対し、国側が期限の12日までに上告しなかったことで、上告した原告10人以外の判決が確定した。(中略)。原告側は、飛行差し止めと騒音測定を求めて10人が11日に上告している。

 根本的な解決には「騒音源を元から絶つ」しかないでしょうね。


最後まで読んでくれて有難う

100730/100813


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