低周波音問題に対する政府の態度に変化は全く無し

加藤修一参議院議員による「低周波音による健康被害の防止に関する質問主意書答弁書」へのコメント

 既載のように、消費者事故調は@06年度のシンドラー社製のエレベーターによる死亡事故、A05年のパロマ工業(現パロマ)製のガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒死事故、B09年に東京都の商業施設で起きたエスカレーターの手すりからの転落事故、他の2件を取り上げたと言う。

 これらの事案は将に申出制度の本来の目的である「消費者安全調査委員会の事故等原因調査等のきっかけの一つとして、消費者庁から報告される事故等情報だけでは抽出できない事故等について、必要な事故等原因調査等につなげるためのしくみを構築することにより、調査等の必要な事故の漏れや事故等原因調査等の盲点の発生を防ぎ、必要な事故の再発・拡大防止対策につなげていくことを目的としています。」の前半のくだりの部分を具現化したことになるのだろう。しかし、これらの事件は既に有名で今更消費者庁が何をするの?、と言うような事例に思うのだが、「他の2件の内の1件」が関係有るから採り上げた。

 被害関係者としては、重要なのはもちろん後半の「発生の防止、再発、拡大防止」と言う公式的な見解ではなく、やはり、「そうなってしまった現実、さらにはその原状回復」にこそ有り、その救済を求めたい所であるが、今回の目的にはそうした意図は全く無さそうだ。

 しかし、仮にその機器に問題が有るとなれば、「消費者」としては少なくともそのガス湯沸かし器は使わないであろうが、エレベーターやエスカレーターでは一々その製品製造会社を一般個人が確かめるわけにはいかないであろうが、その製品に明らかに問題があるとすれば、その会社の製品には何となく乗りたくない。さらには消費者側の企業や個人も万が一に備え製造企業に少なくとも「お前の所の製品本当に大丈夫だろうな」の一言くらい言いたくなり、自然と売上高も減るであろう。まー、それが社会的制裁と言うのであろうか。

 既に死者が出てしまったという事実は変えられないのであるから、もし逆に消費者庁の調査で関係機器の稼働に「問題が無い」とすれば、では一体全体原因は何であったのかor問題は何だったのかと言うことになる。調査委員会はそれらを明らかにしなくては能書きとしての存在の意味がない。それが出来ないとなればタダ単に問題を混乱させるだけで、むしろ当該機器に意味のない安全の”お墨付き”を与えることになる。謂わば、”被告”の無実を証明もせず、無実だけを宣言することになる。即ち「疑わしきは罰せず」なのだろうが、何とも不思議な話だ。が、9.11以前の話としては格別不思議ではない事になろう。


 さて、消費者問題に関する特別委員会において11月に委員長に互選された「行動する環境政治家」加藤修一参院議員氏が12/11/12に「低周波音による健康被害の防止に関する質問主意書」を提出したと言うお知らせをこの時点で頂いたが、いつになくバタバタしており、尚かつそれに対する「答弁書」(11/20)を待っていたのでドンドン遅くなってしまった。低周波音問題被害関係者としてはムチャンコ良いタイミングでの提出だと思うのだが、どこまでおやりになることができるのであろうか大いなる期待を持ってウオッチさせていただく。それにしてももっとバタバタしているのは選挙を控えた議員先生がたであろう。

 さて、質問書、答弁書の内容だが、下記のようであるが低周波音問題に於ける最新の問題であり、「PL法(製造物責任法)等に基づく低周波音の健康被害に関する訴訟」「エコキュート(家庭用ヒートポンプ給湯器)などの低周波音被害の訴えが急増」などにおける政府の現況認識・把握が公にされたと言うことが重要であろう。

 結論を言えば、「政府においては、 低周波音による影響について、 今後とも最新の科学的知見等の収集に努めてまいりたい。」と言うことで、その態度はこれまでと全く変化はない 。なお、下記質問、答弁部分の太字、○番号は筆者による。ただし、答弁二の平成元年度以降の丸数字は原文通り。
 

質問 答弁 コメント
一 国の公害等調整委員会においては平成二十二年度以降、低周波音関連事件が二十一件係属した。このうち健康被害との因果関係の判断(原因裁定)や損害賠償責任の有無の判断(責任裁定)を求めた九件が棄却される結果となっている。準司法的な権限を有する公害等調整委員会の審査にあっては、「低周波音公害」の定義が求められるところだが、これまでの裁定において因果関係や損害賠償を問う基準となる明確な定義が示されたことがあったか明らかにされたい。示されたことがある場合、その定義を明らかにされたい。仮に定義が確定していない場合であっても、審査に当たって準拠している見解を示されたい。 大気汚染や騒音、振動といつた公害の類型ごとに「因果関係や損害賠償を問う基準となる明確な定義」が存在するものではない。裁定に当たっては、@裁判例やA過去の裁定も踏まえ、B加害者側の事情とC被害者側の事情、具体的には、D侵害行為の態様とその程度、E被侵害利益の性質とその内容、F侵害行為の公共性の内容とその程度、G侵害行為の開始とその後の継続状況、Hその間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等が総合的に判断されるものである。
二 平成元年度から同二十三年度までの都道府県公害審査会等における低周波音関連事件の受付件数及び終結件数を年度毎に明らかにされたい。また、右記二十三年間の終結事件について、調停が成立した件数、調停を打ち切った件数、申請を取り下げた件数、公害等調整委員会へ裁定を申請した件数を年度毎にそれぞれ明らかにされたい。また、調停が成立した事件のうち発生源対策を行うことで合意した件数、終結した全事件の一事件当たりの平均処理期間、打ち切りとなった事件の申請受付から終結までの間の審査会開催の平均回数についても明らかにされたい。 @当該年度において調停の申請を受け付けた件数、 A当該年度において調停の手続が終了した件数、BAのうち調停が成立した件数、CAのうち調停が打ち切られた件数、DAのうち申請が取り下げられた件数、EAのうち公調委に対し裁定の申請が行われた件数を、平成元年度から平成二十三年度までについて、各年度ごとにお示しすると、次のとおりである。
平成元年度@二件A一件B一件C零件D零件E零件、平成二年度@零件A一件B一件C零件D零件E零件、平成三年度@零件A零件B零件C零件D零件E零件、平成四年度@零件A零件B零件C零件D零件E零件、平成五年度@一件A零件B零件C零件D零件E零件、平成六年度@一件A二件B二件C零件D零件E零件、……。
 政府による公的な文書は未だに縦書き漢数字使用が正式な書式のかも知れないがそれにしてもその記述は役人は部外者には解りやすさの「親切」を素人の民間人には求めるくせに自分たちは役人業界用語的な言い回しや表現でワザと相手に解らせる気が全く見られない「不親切」な記述法だ
 実はこの相手に(この場合は相手が役人なのだが)「(役人の私に)親切にしろ」と役人が口にしたので思わず述べてしまうのだが。
 一応、私は自分に親切にするために下に表にしてみた。
三 環境省の自治体担当者向け「低周波音問題対応の手引書」(平成十六年度)では、被害を訴えてきた人の「心身にかかる苦情」を評価する際に、「参照値」を用いるよう推奨している。「参照値」は、騒音の基準値でもなく製品の規制値でもなく、極めてあいまいな数値である。しかし、現状では、公害等調整委員会の裁定で、低周波音測定値が「参照値」を下回っているため、「苦情が低周波によるものである可能性は低い」などと棄却理由として利用されるなど、結果的に被害者切り捨てにつながっているのではないか。そもそも「参照値」なるものは、いかに綿密な実態調査等を踏まえた科学的普遍性等に基づいてつくられたものなのか、政府の見解を明らかにされたい。 低周波音の閾値(それ以下では反応を生じない最大値)や心理反応についての聴感実験データ等を基に、学識経験者からなる低周波音対策検討委員会において示された数値である。また、公調委に対する低周波音による被害に関する裁定の申請について、測定調査の結果等が「参照値」を下回っていることのみをもって、申請を棄却する裁定は行われていない ”「参照値」を下回っていることのみをもって、申請を棄却する裁定は行われていない。”とあるが、それはそもそも”「参照値」を上回っていて”も棄却した裁定or”下回っていても調停が成立した”事件があるのか。
四 消費者庁の事故情報データバンクによれば、平成二十二年四月一日の運用開始から平成二十四年十月二十三日までの間に低周波音に関する苦情が四十件寄せられ、内訳では電気温水器二十一件、風力発電設備四件等となっている。電気温水器などによる健康被害は消費生活用製品安全法における重大製品事故に該当すると思われるが、政府の見解を明らかにされたい。該当しないとすれば、その理由は何か、明らかにされたい。 一般消費者の生活の用に供される「電気温水器」や_「風力発電設備」による健康被害が、消費生活用製品安全法(昭和四十八年法律第三十一号)第二条第六項に規定する重大製品事故に該当するか否かについては、個別具体の事案に即して判断されるべきものである
「個別具体の事案に即して判断されるべき」とあることから当該機器を全般的に否定しようという姿勢は全くないと言うことである。この点から次項のPL法訴訟には”国家的に負けないぞ”ということであろう。そもそもそれらの機器は国がお墨付きを与えているはずで、不法な製品であってはならないからである。
五 PL法(製造物責任法)等に基づく低周波音の健康被害に関する訴訟の、事件名、事件の概要(原告の主張)、提訴日、請求額、判決内容について、政府が把握しているところを明らかにされたい。 製造物責任法及び国家賠償法に基づく低周波音による健康被害に関する訴訟につき、政府として把握している限りでお示しすると、次のとおりである。製造物責任法に基づく訴訟については、独立行政法人国民生活センターのホームページの「製造物責任法(P L 法)による訴訟」において、@「家庭用ヒートポンプ給湯機健康被害神奈川事件」、A「業務用ヒートポンプ給湯機健康被害岩手事件」及びB「家庭用ヒートポンプ給湯機健康被害群馬事件」として掲載されており、いずれについても現在訴訟係属中と承知している。
国家賠償法に基づく訴訟については、平成二十四年七月十日に提訴されたC「低周波被害国家賠償請求事件」(訴状に記載された事件名)を把握しており、その概要としては、居住地の隣地に所在する機器(冷凍庫、給湯器等)が発する低周波音により健康被害を受けたという原告ら(六名)が、環境大臣が規制権限を行使しなかったことが違法であるとして、国に対し、損害賠償を請求したものであり、同法に基づく請求額は八百十九万円で、現在訴訟係属中と承知している。(番号は筆者による)
@ABは一連のいわゆる「エコキュート裁判」で、Cについてはこちらに詳しい。まー、国も承知してくれていれば良いようと言うことであろう。
六 エコキュート(家庭用ヒートポンプ給湯器)などの出荷台数に正比例して低周波音被害の訴えが急増するという対応関係にあることは客観性が担保されている。そうであるならば、騒音規制法や自動車の排出ガス規制のように、生活環境での規制基準の設定や製品の出荷規制など被害防止のための抜本対策を実施し、被害が拡大しないようにすべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。 御指摘の機器について低周波音に関する苦情があることは承知しているが、一般環境で観測されるような低周波音の領域では、人間に対する生理的な影響は現時点では明らかとはなっていないため、政府においては、 低周波音による影響について、 今後とも最新の科学的知見等の収集に努めてまいりたい。 既に多くの被害者(政府的には苦情者)が出ているにかかわらず依然「人間に対する生理的な影響は現時点では明らかとはなっていない」とし、政府として具体的に科学的知見を得る方策観測実験によるデータ収集と、仮説の定式化と、検証から構成)を何ら立てることなく、収集だけで海外の知見に追随するだけで自らの術を知らない、と言うより知ろうとしない。

右記は何れも平成年度 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 合計
@調停の申請を受け付けた件数 2 0 0 0 1 1 1 1 2 1 0 1 1 3 3 4 2 1 2 4 2 7 4 43
A調停の手続が終了した件数 1 1 0 0 0 2 0 1 2 2 0 0 2 0 3 1 1 4 0 4 4 3 8 39 91%
BAのうち調停が成立した件数 1 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 1 0 0 1 0 0 1 9 23%
CAのうち調停が打ち切られた件数 0 0 0 0 0 0 0 1 2 2 0 0 1 0 2 1 0 4 0 0 0 1 6 20 51%
DAのうち申請が取り下げられた件数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 4 2 1 10 26%
EAのうち公調委に対し裁定の申請が行われた件数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 2 0 1 5 13%

 公害等調整委員会でも一般の騒音問題では結構損害を認めるような形になっているが低周波音関連事案としては全くの愛想無しだと思っていたのだが、この中に低周波音被害者が報われたような事案が有るのであろうか。低周波音と騒音を誤解しているような事案は有ったような気がするが。→清瀬・新座低周波音騒音被害等調停申請事件(13年11月申請〜15年3月調停成立)。これに対する公害等調整委員会の自賛私のコメント。因みにこの件に関し「あれは騒音」と直ちに言われたのは汐見先生だったような記憶が。これが平成15年の1件か?


 松戸市エコキュート事例

 そして、将に時宜に適ったエコキュートの騒音問題が解決された事案が、平成23年11月の公害等調整委員会機関紙「ちょうせい」第67号に「松戸市における家庭用ヒートポンプ給湯機の騒音・低周波音・振動測定事例についてPDF (別添・経過)PDF)」として掲載されていることを関係機器被害者の方から連絡いただいた。

 確かにサラリと読むと、「63.80H(zは要らないの?)帯で「心身に係る苦情に関する参照値」を超える値が確認されたため、所有者に対し設置者や製造者に連絡するよう指導を行ったところ、設置業者が給湯機の移設を行った。」とあり、将に「参照値」を越えていたことにより機器の移設が行われた様に書かれている。「家庭用ヒートポンプ給湯機の騒音・低周波音・振動による被害者にとっては”将に天恵のような事案”である。地獄で仏である。これで救われる!と被害者は思う

 しかし、”参照値とエコキュート問題”がこんなにすんなり解決するとは私にはとても思えなかった。少なくともそれこそ政府が言う「個別具体の事案に即して判断されるべき」点が有るのではと思った。

 ”あにはかった”様にこの事案は上記別添・経過の処理経過に、特例でなく、いや”特事案”であると思われる事実が記されていた。ひとまず簡単に処理経過を見てみよう。

平成22.11.4 市に苦情の電話
平成22.11.9 陳情者来庁。騒音苦情受理
平成22.11.12 協議で深夜から騒音測定に決定 市役所が深夜から早朝まで測定してくれることは極めて稀有な例です
平成22.11.25〜26 午前5時まで測定
平成22.12.9 .製造事業者より市に電話があり、市は早急に対応するよう要請 市が民民の問題に測定で介入どころか、仲立ちまでしてくれるなど稀有です。この時点で騒音問題も相当に非道いことを予想させます。
平成22.12.13 現地点検したところ通常より大きな音がしていたので、暫定対策として運転時間を変更。
ヒートポンプを新しいものに変更し、設置場所を変更
こうあって欲しいと願う最高の対応です。通常より大きな音が一体どの程度の音だったのでしょう。
単なる「参照値」越えだけとはとても思えません。寧ろ通常の騒音の方が非道かったのではないでしょうか。
平成22.12.27 製造試験時のFFTデータ提供を要請。 「FFTデータ」とはなんでしょうか。回転に伴う騒音値でしょうか。
平成23.2.25 交換前の機器を細かく検査したところ不具合があったと事業者が報告。
FFTデータは社内規定を理由に提出を拒否。
この「不具合」とはなんでしょうか。この製品の個別問題でしょうか。それともこの種のエコキュート全てでしょうか。
「製造試験時無響室の実験結果に問題がなかった」とするデータが何故出せないのでしょう。勘繰ればデータの改竄?

 以上から推測できるのは、単に「参照値」を越えていたことにより機器の移設が行われたと言う事例では無いのではと思われる。そして、「ちょうせい」に掲載されているものの、あくまで松戸市独自の事案であり、一般の行政が民民問題に介入してくれれば結果の如何はともかく、ここまでやってくれれば実は結構事業者もそれなりに何らかの対応をせざるを得ないという肘の希な例です。そして、これには公害等調整委員会は全く関与していない上に、もしこれを純粋な低周波音事案と思って「ちょうせい」に載せたのなら誤解も甚だしい。少なくとも松戸市は必ずしも「参照値」のみの対応をしたようには読めないからであるから。公害等調整委員会は問題の本質の切り割りが実に出来ない。

121128


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