「よくわかる低周波音

070706

 6月半ば、「よくわかる低周波音」という、オールカラーで、ほとんどのページのほぼ半分が図か表で占められる25ページの冊子が汐見先生から送られてきた。環境省 水・大気環境局大気生活環境室発刊なので、多分今頃は行政の環境系の部署の窓口には置いてあるはずなので、みなさんも是非とも手にして、環境省がどういった風に「よくわかる」ように低周波音を説明しているか是非とも見て欲しい。

発刊は平成192月である。自分が知らなかったことは棚に置いて、情報通の先生をして4ヶ月も経ってからとは一体どうしたことであろうかと思いつつ、環境省のHPを見たがそんな冊子の話しは載っていない(※)。結局、先生に冊子を届けた方(低周波音症候群被害者の会)の話しで、6月初旬に地元自治体から入手されたとのことで、巷に出回ったのは実に最近の話しだったようで納得できた。

私もご丁寧に地元の市役所にも聞いてみたが、「ええ、ウチにも6月初旬に来ました。お知らせしようかどうか一応しばらく考えたのですが、…」と言うことだった。

私としては「内容もさることながら、こんな中途半端な冊子をどうしてこの時期に作る必要があるの?」等と言う末端行政の窓口に言ってもしょうがないような事をグダグダと言ったのであるが…。実はこの「中途半端」と言うことが大事なのである。

このパンフレットの事は環境省のHPにも無いので、私も、本当は全ページをHPに載せて、”「発生のメカニズムや影響」が難しく、「一般の方には理解が難しく、不安を招くとともに問題解決の妨げにもなっている」上に「その影響や対処方法はあまり知られていません」「低周波音に関する理解を深めていただく」一助として環境省のお先棒を担いで、「問題の解決に少しでも役立つ」”よう、紹介したいところだが、基本的にはどこの自治体にも有るはずだから、興味のある方はまずは現物をご覧になっていただき、本当に「少しでも役立つ」かどうかその眼で確認していただきたい。

ただし、汐見先生曰く、「読んだらかえってわからなくなるというすぐれもの」だそうで、私も全く同感、捨て置けばいいと思ったのだが、読めば読むほど確かに解らなくなる。どうしてそうなるか私なりに少し紹介しよう。

※最近、環境省のHPを見たらこの冊子がマルマルアップ・ロードされていた。プロパティを見ると9月にPDFファイルが作成されいるので、アップロードはその後ということになろうか。


まずは冊子の「はじめに」の全文引用してみよう。

はじめに

近年、低周波音による苦情件数は増える傾向にあります。低周波音への関心が高まったことや、生活の質の向上に伴いよりよい生活環境が求められるようになったことに起因していると考えられます。一方、低周波音の発生メカニズムや影響などは、一般の方には理解が難しく、不安を招くとともに問題解決の妨げにもなっています。

このたび、「よくわかる低周波音」を作成しました。このパンフレットでは、一般の方を対象に低周波音に関する理解を深めていただくことを目的とし、音の基礎や自分で出来るチェックリストなどを記載しております。

このパンフレットが多くの方々に読まれ、低周波音による問題の解決に役立つことを願っています。

              平成192

環境省 水・大気環境局大気生活環境室


@近年、低周波音による苦情件数は増える傾向にあります。低周波音への関心が高まった

これはP.12のグラフによっても明らかである。特に注目してほしいのは、平成12年と、平成16年が急激に増えていることである。ご記憶の方も多いだろうが、実はこの平成12年と言う年は「低周波音の測定方法に関するマニュアル」が策定された年であり、平成16年と言う年は「低周波音問題対応の手引書」が公表された年である。

 環境省は実体業務としては地方自治体からのデータを収集をしているだけではあるが、“古くて新しい問題“低周波音問題を「再発掘」したと言う点ではその功績は極めて大であることは事実である。そして、この事実から見れば「地方自治体の無知と怠慢」は明白である。

要は国が動けば地方も少しは動くと言うことである。特に地域的に普遍性が乏しく、被害者が全国に散在しているような低周波音問題については全国レベルで見るという功績は大としなくてはならない。

A生活の質の向上に伴いよりよい生活環境が求められるようになったこと

確かに、極端なことを言えば、テント生活の難民生活では低周波音問題は生じないであろう。日本でも10年一日のごとき生活を地域全部がしていれば工場も車もほとんど無いし、個人の敷地と言うより空間も広い、即ち隣の家がうーんと離れていれば低周波音問題と言うより騒音問題は生じようがないであろう。

従って、自動車や空調設備やコンビニなどの都会的生活、更に遡れば文明的な便利な「よりよい生活環境」を求めた個人に問題が有ると言うことになる。

B低周波音の発生メカニズムや影響などは、一般の方には理解が難しく、不安を招くとともに問題解決の妨げにもなっています。

「低周波音の発生メカニズム」は確かに理解が難しい。しかし、私的には、問題のレベルが違いすぎるが、久間章生防衛相の、米国による原爆投下を「しょうがない」と同じように産業の発展にともなう文明的経済活動のためには、「しょうがない」と理解した。

騒音が騒音としてばらまかれていればそれなりの規制が行えたのだが、それを逃れるために産業界が行った、「可聴音域騒音の低周波音化」は、実は禁じ手であり、間違いなく低周波騒音被害を日常空間に広範にばらまくことになるとんでもない行為である。

こういった私のような“誤解”が低周波音に対する「不安を招くとともに問題解決の妨げ」になっていると環境省は言いたいのだろうが、低周波音が私にもたらした被害を考えると、こういった結論にならざるを得ない。

「影響」については、私のみならず低周波騒音被害者は、この問題に関与するどの専門家より遙かに良――く理解している事は言うまでもない。

一方、「一般の方」はもちろん、環境省が言うところの“専門家”の端くれである行政窓口の人たちにとっては低周波騒音被害の理解は不可能である。何故なら、実は、低周波騒音被害者の苦しみの状況というより症状は、この冊子は元より、これまで出された「マニュアル」にも「手引書」にも具体的にどんな苦しみの症状を呈するか一切説明されていないからである。それを具体的に記しているのは汐見医師のみなのである。

何故こうしたことが何時までもまかり通るのかと言えば、低周波音専門家と言われる人たちが、理工系出身者で、被害者が身を以て現実に体験した、あるいは現に体験している苦しみを聞き取るという意識が全く欠如しているからである。それならそれで、どこかから「聴く耳持つ人」が出てきても良さそうなモノだが、これが不思議なことに、低周波騒音被害者全てが訴える被害をキチガイか詐欺師の言説のごとく扱い、汐見氏以外誰一人として聴く耳を持つ人が出てこない。
 
 まー、これを言い出すといつものこととなるので、それはこれまでの内容を参照してほしい。

要は、彼らの結論は低周波騒音被害者の苦情は「単なる気のせい」として、依然実情を何ら具体的に聴取しているわけではない。従って、低周波騒音被害の影響など理解などできようはずが無い。従って、当然ながら、低周波騒音被害者の苦しみを具体的に述べることなどできようはずが無い。

しかし、彼らがその気になりさえすれば、騒音SOSや低周波音症候群被害者の会などへ行けば、被害現在進行形のナマの被害者がいるわけだから、状況も症状も幾らでも聞き取り調査はできるはずだ。
 そして、汐見先生をして「日本中で一番低周波騒音被害の現状を知っている」と言わしめている山田先生は騒音SOSの理事長までしており、低周波騒音被害者の苦しみを具体的に知らないはずがない。低周波音の“専門家”には、被害について完全なる無知、誤解、曲解の輩が少なくないが、少なくとも山田先生に関しては意図的な無視、黙殺としか考えられない。

詰まるところ、実にこういった「誤解」を被害者にも専門家にももたらすこと自体が、単に「影響」のみならず、この問題の本質が如何に「理解が難しい」かと言うことを物語っている。


現在、当に低周波騒音被害者である人にとっては極地獄のような苦しみの状態が一生続くのかと思う「不安」は、彼ら言うところの低周波音が「よくわかった」ところで無くなるものではない。むしろ、低周波騒音被害など何も関知しない大多数の人々に、「低周波音は難しいけれどあなたが被害者になることはめったにありませんし、例えなったとしても、それは単にあなたの気のせいで、現在の被害者がギャーギャー騒いでいるようなモノではありませんから、不安になる必要はありません」とでも言うことなのだろう。

そして、被害者が「問題解決の妨げ」にならないように、“誤解”に基づいた苦しみを訴えず、静かにしていればだれかが問題を解決してくれるとでも言うのであろうか。

冗談じゃない。決してそんなことはない。

C一般の方を対象に低周波音に関する理解を深めていただくことを目的

忘れてはならないことは、この冊子は「マニュアル」とか「手引書」などの様に“専門家”を対象としているのではなく、現在、既に低周波音被害者であるか、低周波音なんぞには格別興味のない「一般の方」を対象としていることである。

それは即ち、行政が説明するまでもなく、「この冊子を読んだだけで、あなたは低周波音被害じゃない」と言うことが解るだろう、と言うことなのである。その決めぜりふはP.18の「低周波音とのつきあい方」である。

「不快感や建具のがたつきを引き起こすような大きさの低周波音は稀にしか存在しません。それにもかかわらず、このような問題を引き起こす低周波音が身の回りにあるのではないかと思い込むことで、精神的にまいってしまうこともあります。低周波音に対する正しい知識を身につけていただくことも、低周波音との上手なつきあい方の一つです。」

とある。これは、いわば、上記の「不安」とも関連するのだが、“あんたが低周波音に無知なため、有りもしない音を有ると思い、不安を募り、精神的に参ってしまい、挙げ句に扇動者のような被害者達の言葉に惑わされ、勝手に低周波音被害者になった。”という事である。

これが学会、行政などが主張する、何とも非科学的な低周波音被害全面心因説、或いは低周波音被害自己責任説である。これらの考えをまとめてひとまず、「低周波音被害妄想説」としておこう。

しかし、ガリレオの「それでも地球は回っている」ではないが「低周波音被害妄想説」が正しいとしても、如何に無知な被害者でも自分の苦しみを気のせいとして納得できるはずがない。


そして、「おわりに」だが、

低周波音は、私たちが普段聞いている音と同じ音には変わりありませんが、騒音などよりも馴染みが薄いことから、その影響や対処方法はあまり知られていません。
 この小冊子が「低周波音」についての理解を深め、問題の解決に少しでも役立つことを願っています。

この前半の文にこの冊子の意味が全て込められていると言えよう。

「私たちが普段聞いている音と同じ音には変わりありません」。これ自体間違いない。確かに、低周波音は単に空気の振動数が少なくなるだけで、突然或る一定の周波数から区切られるわけではないから「同じ音」ではある。簡単に言えば音楽の低音(5080Hz)であり、大型ダンプのアイドリング音(30Hz前後)であり、確かに誰もが普段聞いている音である。

低周波音問題に於ける低周波音と言った場合は80Hz以下なのだが、ここに「単純な学問的理論としての音」「低周波音被害現場での現実騒音」とを意図的に混同させようとする高等技術がある。
 両者の最大の違いを一口で言ってしまえば、「継続時間の長さ」と「深夜・早朝という発生時期と休息を取るべく就寝する場所」と言う点が根本的に異なると言うことである。これに関しては既に別稿(「脳と音」)で述べているので参照してほしい。

そして、決定的なのは、「同じ音」と言いながらも、何故、国がわざわざ低周波音と言う言葉を冠した「低周波音の測定方法に関するマニュアル」とか「低周波音問題対応の手引書」を作り、わざわざ一般の騒音と区別しているのであろうか。

それは決して単に低周波音被害者がギャーギャー騒いでいるからなどではない。一に低周波音被害者を発生させる低周波音は「私たちが普段聞いている音と同じ音では無い」と言うことを“専門家”自らが認識しているからである。

もし、そうでないなら、「騒音などよりも馴染みが薄いことから、その影響や対処方法はあまり知られていません」のは被害者ではなく、むしろ“専門家”達なのではないか。


低周波音問題の主因たる低周波音を単に物理特性の周波数、音圧という視点からのみ見て、後の残りの部分が全然違うと言うことを認識しない限り、永久にこの問題を解決する事はできない。

もちろん国も“専門家”もこの事は十分に承知していることであるはずで、間違ってもそんな無知蒙昧なことは有り得ないのだが、ただ、問題解決の方策が見つからない故に、更に罪を重ねるような業界の「可聴域騒音を低周波騒音に追い込む」静音化を積極的に利する「参照値」を出したり、無知な被害者や被害者候補生を言いくるめるような、今回のような冊子を出すことは欺瞞の上塗りとしか言いようがない。むしろ、無為無能無策の方がマシであると言っては言い過ぎか。

 

現実的には「理解が難しい」のはむしろ「一般の方」ではなく、環境省が“専門家”としている行政の相談窓口の人間ではなかろうか。彼らにはこの冊子程度の理解も無い担当者が少なくないようである。それを明白に物語るのが低周波音の測定である。


では、仮に、この冊子を読んで、自分が低周波音で困っていると思ったとして、素直に、この冊子のP.18の「低周波音とのつきあい方」の欄外の「相談方法は?」にあるように、「低周波音で困ったら、お住まいの地方公共団体の環境担当窓口にお問い合せ下さい。」を信じて、自治体の環境担当窓口に行ったとしよう。

そして、原因が低周波音に有るか否かの判定のための国推奨の「参照値」に「参照するための測定」をお願いしてみよう。そうすると、窓口は、「測定器がない」とか、「夜は測れない」とか、「民民の問題だから行政はタッチしない」だとか言い始める。

以前から行政にとって「解らない低周波音」が、むしろ最近では、「面倒な低周波音」となり、端から測定をしない地方公共団体が増え、「参照値発効」以前より動きが悪くなっているようである。

低周波音に関する知識を広めようという環境省の活動は意義有ることであるが、大勢の結果としては逆になっている。

本来なら、環境省はこういった一般被害者を対象とする冊子を出す前に、まずすべきは、まだまだ、各自治体に「もっと積極的に苦情者の現場に赴き測定をし、「参照値」の有効性を証明するデータを収集してちょうだい」、とお願いすべきである。しかし、財政難の昨今、実際は仮にそうしても末端が「はい、はい」と動くわけではない。結局は被害者個人の粘りで末端を動かすしかない。そのためには被害者もそれなりの努力が必要なのである

ところが、現実は全くその逆で、低周波音に関して「一番よく知っている」のは実はと言うより、当然ながらあらゆる手段を尽くしてあらゆる抜け道を考える企業であり、「知ろうと努力」しているのは市県レベルの行政である。それは私のサイトへのアクセスがそれらにより7割方以上が占めることにより推測が可能なのである。

敵もサル者引っ掻く者、本当の「一般の方」は除いても、被害者or被害者候補生は行政に対して「粘る」にはそれなりの知識が無くては刀打ちできない、と言うことを解っていない。

以上のことが“「低周波音」についての理解を深め、問題の解決”に繋がる方法である。


さて、最初に戻って、冊子の「はじめに」によれば、「近年、低周波音による苦情件数は増える傾向にあります」とあるので、当市に聞いてみたが、「当市ではそんなことは無い」そうだ。現実は、“「参照値」がそれなりに上手く働いて“被害者を次々に切り捨てているのかもしれない。或いは、全国レベルで見れば、「参照値」が寝ている被害者を起こし、統計的に増えたと考える方が正しいであろう。

年金問題などここまで来ると間違っていないはずの人まで「ヒョッとしたら私も」と思ってしまうのと、規模、レベルとしては全く比較にならないほどではあるが、似た点はある。

従って、私としては、今何故、殊更に環境省がこんな冊子を出して低周波音問題を荒立てる必要は無いと思うのだが不思議である。それとも、まだまだ「参照値」による被害者の切り捨て方が足りないとでも考えているのであろうか。

まー、しかしもっと単純に2月という日程を考えると単に予算が余ったので何かに使ってしまおうと思ったのかもしれないが、それにしてはこれだけの冊子を作り、全国の自治体に配布するとなると、相当な費用が要ったはずである。その金でもう一度全国の自治体に低周波音専用のレベル計NA-18Aでも配ったら如何なモノか。そうすれば少なくとも自治体の「測定器がないので測れない」と言う逃げ口上は通用しなくなるはずだ。

また、もし、本当に少しでも被害者のことを考えるなら、まずは「騒音SOS」や「低周波音症候群被害者の会」のような被害者団体に配布すべきである。そのほうが、少なくとも“読者“としても関心を持ってくれ冊子の有効活用できるはずである。

そうした様ではないので、このレベルの本当の被害者には全く用をなさない内容の冊子をドカッと自治体に送りつけ窓口に置くようにしたと言うことは、どう考えても、本当に苦しんで窓口に来たズブの素人の被害者を門前払いするために用意した代物としか思えない。


 現物を手にしていない人は是非とも各自治体で手にしてほしいのだが、その例証の代表は、P.8である。そこには、未だに飽きることなく「かなり大きな低周波音でないと感じ取ることができません。低周波音を感じなければ、不快感も圧迫感も生じません」と言い切っている。

それは逆に、「低周波音を感じたり、不快感や圧迫感が生じた」場合は「かなり大きな低周波音である」と言うことになるはずなのだが、現実的に低周波音のみが大きな音で単独で存在することはまず無く、結局、犯人は実際にうるさい可聴音にされてしまい、あくまで主犯の低周波音は守られるのである。面倒なので今後この考えを「不可聴音無被害説」とする。

しかし、現実に行われているのは“実行犯”の可聴域騒音を目立たなくするために「治外法権の低周波音」にしてしまうことで、それが、「周波数を下げる静音化」であり、更に進んだ、ピーク周波数を作らないチューニング技術なのであろう。その“英知”の結果がエコキュートや風力発電なのであろうが、それは新たなる低周波音被害者を作っているのである。

全ての騒音を可聴域音にしてしまえば、低周波騒音被害は無くなるであろうが、騒音問題は増えることになる。その数の方が多いから少数者の低周波騒音被害者を喚かせておいた方が行政的には楽なのであろう。

 私にとっては、低周波音問題の本質は依然「よくわかる低周波音」の表紙の葉の奥の暗闇にあると思わざるを得ない。

最後まで読んでくれてありがとう

2007/07/17



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