風車問題私的入門

風車騒音被害を低周波音問題との絡みとして以下を現時点に於ける私的概要としたい。

風車騒音問題はもちろん風車独自の問題点は多々あるが、本質においてこれまでの低周波音問題と全く同一の延長線上にあると私は考える。即ち、これまでの低周波音問題が持つ問題点を全て網羅する、と言うより、むしろ、より広範な問題点を有し、それは図らずも低周波音問題をより明確なモノとせざるを得ないはずと考える。

まず、両被害の決定的な共通点は、

  @眼に見えない音の被害である(風車では羽根の回転と景観の悪化という視覚被害、さらには大規模な住環境の劣悪化による住居の資産価値の低下という被害まである)。

A被害者にとって面倒で、加害者にとって非常に都合の良いことに、
  “騒音”の主犯的部分が耳に聞こえない低周波音と更に周波数の低い超低周波空気振動(超低周波音)である。

B国・業界がこぞって、騒音源の普及を推奨している。

  C本来なら問題解明が最もできるはずの立場、能力を持っていそうな専門家や科学者が問題解決に徹底して手を出さず、
  原因究明をしようとしないどころか、被害事実までを黙殺どころか否定しようとしている。等である。


1.騒音源

1−1 風車騒音の特異性

風車被害者の方からは、何を偉そうにと言われるであろうが、私のサイトの流れからするとこれは欠かせないし、実際に風車の被害について知らない人についても少しは知ってほしいので、グダグダを承知で述べる。

これまで低周波音被害と言われている騒音源は、交通手段を除けば、場所的に固定的で、問題となる騒音・振動も特定の一定周波数に限定される場合が殆どである。

しかし、風車の発生騒音は簡単にまとめると、@風車(ブレード)の風切り音 A回転部分(ナセル)の機械音 B冷却装置、昇圧トランスの音 Cこれらの振動・騒音によるタワー全体の振動、共鳴音などがあろう。

風車自体の個体差が有るようだが、AとBは100200Hz、@は風車、ブレードの長さに依り、Cはタワーの高さに依ると思われるが、いずれも数ヘルツと言う、“二本立て”の周波数帯に騒音・振動が有ることである。

@の音は、被害者の話では飛行機のプロペラ音、複数ではジェット機が飛び交う様な音と言う人もいる。また、複数の風車が存在するような場所(ウインドファーム)の近くのアメリカの被害者は、"It sounds like an airport.飛行場のように聞こえる)と表現している。

 これは風車の羽根そのものが、飛行機のプロペラから発していることから音質的にそうなるのであろう。風力発電の宣伝サイトではないかと思えるほどウィキペディアは風力発電に関しては充実しているのだが、「風力発電機の騒音(風切り音)は一時期問題とされたが、近年は大きく改善され、通常は問題にならない水準に達している。…騒音は200m〜300m程度離れれば周囲の風音と区別がつかない水準(または「冷蔵庫程度の騒音」)にまで減少する」とある。
 確かに飛行機のようにエンジンが無いわけだから、“音的にはさほど煩く無い”事にはなる。ただし、この音は「空回し」状態と発電時では大きく異なり、簡単に言えば、飛行機が滑走路を移動している時と飛び立つ時とでは音が盛り上がり「飛び上がる」と言う気分になるのだが、風車の発電時は、この状態が続き、音的には周波数が低いので、聞こえる音と言うより、ただ圧が増し、苦しくなる感じがするのではないか。

これまでの低周波音被害と風車騒音被害が根本的に違うのは超低周波部分の音圧が、自然界か、ロケットなどを除けば普通には存在しないような異常に大きいことである。@は風車の回転そのものが空を切る超低周波空気振動を起こし、なおかつ、羽根がタワーと重なる時の空気圧縮で「シュッ、シュッ、…」と言う風切り音を立てる事である。この音が「改善」で「問題にならない水準」になったというのだが、それでも200〜300m離れても聞こえる。それは音の質が自然界の音とは全然違い、尚かつ風車が存在する地域は基本的に「全く静か」である場合が多いからで、人間はその音質の違いを聞き分けることができるからだ。恐らく喧噪に満ちた街中であったら気付かないはずであろう。

この解決法としては、非現実的では有るがタワーがなければ、少なくともと「シュッ、シュッ、…」と言う音は無くなるはずである。で、タワーを東京タワーのような「トラス構造」にすれば良いような気がするが、右の写真を見ても解るように、風車がデカイ場合には風圧に耐えられないのか、小さいのしかない。

Aに関してはかなり改良されてきているらしいが、私は詳細な知識を持たない。BはCとの関係があるのかどうか、有るとしてもそれがどれほどのモノになるのか不明である。


1−2 初心者的風車の仕組み

 風車を見飽きている人には申し訳ないが、イメージのため左図を見ると、形としては首の長いちょうど“お座敷用扇風機”の「超超…大型のモノ」がドンと地面に有ると思えばいいようだ。

タワーの基底部は高さによって異なるのだろうが、その広さは、80m クラス級で8畳の部屋を一回り大きくしたような“丸い部屋”と考えればいい。内部には風車の制御装置が有るのだが、それはもちろんコンピュータであり、タワー内は多分寒暖の差が激しいはずで、コンピュータが狂わないようにエアコンが稼働しているのであろう。タワーが上下に幾つかに区切ってあれば良いのだが、そうでないとすれば8畳25階建て分くらいの容積の温度を制御しなくてはならないわけだからかなりの規模のエアコンが必要となるはずで、そのコンプレッサーの騒音自体も相当なモノになるはずなのだが、それらしいモノは見あたらない。

タワーそのものは上に行くにつれて少しずつ細くなっていく太さ4〜5mの「鉄管」(3つ)を幾つかボルトで繋いで何十メートルの長さと言おうか、高さにする。右の写真を見れば部材の様子が解りやすいのではないか

タワー内部には頭頂部の機械部分のメンテナンスのための階段やエレベーターもあると言うことだ。タワーそのものは、長さ6080m級では、直径約4m、管の厚さ510cm、管の上下の太さの差はほとんどないと言うことで、いわば、中空の「巨大な鉄柱」が建っていると考えればいい。

日本ではタワーは今までは、広告塔と同じ「工作物」の扱いで済んでおり、建築基準法上、一定の風圧などに耐える設計であれば建設が認められていたのだが、姉歯事件を契機とする構造計算書偽造事件で、平成19年の改正建築基準法施行により超高層ビルと同じ耐震審査が課せられることになってしまい、何十年に一度あるかどうか判らない大地震のために山奥のタワーまで丈夫にしなくてはならないと言うことで事業者にとっては一大出費となり、さらには構造計算のため、このところ建築の遅れと同じ運命を辿り、昨年('07)から今年に掛けては新規建設が遅れ、事業者的には問題となっているようである。しかし、まー、何せ国策モノであるから、ほとぼりが冷めればバンバン作られることになるのは間違いない。
 
 しかも「一般に風力エネルギーは、羽の直径の2乗に比例し、風速の3乗に比例する。このため、直径の大きい風車ほど有利であり、風速の大きい場所ほど有利である」と言うことであるから、風速は「風任せ」としても、理論的には100m超級のような一段とデカイモノになるのかもしれない。


1−3 風車的景観問題














before













after

風車問題の特異点として忘れてはならないのは、その立地(あまり人のいない荒野や砂漠)からこれまでの自然景観を大きく変えてしまうと言うことである。世界レベルの景観論争では私は意見を持たない。景観の美醜、良否は各人の美意識に依ると考えるからである。

「欧州で風力に適した風の半分は英国で吹く」と言われながら英国は風力発電において、ドイツ、スペイン、デンマークに大きく遅れたが、最近、環境汚染の火力発電を止め、原子力も止め、2020年までに国内の全家庭分の電力を風力で産み出す、との計画を発表し、日本と同じく国策的に補助金制度があるのでその計画も並ではない。

英国内の半数以上の風車は中西部のウエールズ地方に有るらしいのだが、その内“cefn croes(ケヴンクロエス)”には既に250基以上の風車が稼働しており、更に100m級の風車39基が建設予定で、右の写真は「嵐が丘」の舞台になりそうなヒースの丘(?)が、風車建築後は「風車農場」に変わってしまった姿であるが、ここの風力の景観破壊に対する反対運動はなかなかのモノである。

 しかし、伝説のドラゴンにタワーをノコギリで切ってもらわなくてはならいキャンペーン・ロゴには、国策の前には何ともならないとでも言いたげな気持ちが現れているような気がする。
日本ならさしずめゴジラにでもお願いするしかないのだが、そこまでハッキリした反対キャンペーンは日本には見られない。

 狭い国土の日本では「風車は人家から何メートル離せば問題無いか」という様な切実ではあるが、セコイ問題であり、こういった純粋な景観論争は非常に贅沢な論争であると思う。


1−4 風車騒音の元凶は極超低周波空気振動

さて、話しを音のことに戻して、構造的には風車タワーは「中空の管」な訳で、考え方をチョット飛躍させると、“パイプオルガンの一つの「パイプ」”の様なモノなのである。と言うことは、楽器としての程度には問題があろうが、機能的には「巨大な共鳴体or共振体」で有る訳であり、音源があれば、それは同時に「巨大な発音体」と見なすことができるのである。

 で、共鳴体として、物理の法則に当てはめてみよう。

 まず、タワーを“超大型管楽器”と見なしてみると、「管楽器の周波数の計算」では「管楽器の音は管の音ではなく管の中の空気柱の振動による音が主要部分を占めるので、管の材質や厚さは音の高さにほとんど影響を与えない」と言うことで、ではその“音程”はと言うことになると、「波長をλ(ラムダ)とすると、開管振動(オーボエのような両端が開いている楽器)は気柱の長さが根音のλ/2。半閉管振動(クラリネットのような一方が塞がれている楽器)ではλ/4となる」と言うことである。

タワーの様な大きさの“管楽器”は有り得ない存在であるが、ひとまず、タワーの長さを80m、音速を340m/sとしてv=fλ(音速=管の長さ×周波数)の公式から計算すると、周波数は開管振動とすれば、340m÷80m÷22.125Hz、半閉管振動とすれば周波数は更にその1/21.063Hzと言うことに“机上の計算”ではなる。

実際のタワーの状態を考えると、下は土台でふさがれ、上部はブレードやナセルの取り付けなどから隙間は有るであろうから半閉管ではあるが、むしろ「殆ど閉管」のような状態であろう。となるとこれはもっと音は低くなると共に、籠もることになり、共鳴体であると言うより、むしろ発音体に近いモノになるはずだ。事実、被害者が「タワーの上部の空間から音が漏れているのではないか」と言うことで塞がしたところ「聞こえない“音“」は酷くなったと言うことだ。

もちろん、塔の高さ、音速などの数値の曖昧さは全てひとまずおいても、理論的には、60m以上の「管」では2Hz以下の極超低周波、即ち、”聞こえない音”である「極超低周波空気振動」が計算上は発生している事になる。それが巨大なタワーにより、人間に影響をもたらすほどのモノとして増幅され得るモノであるかどうか実証はないが、汐見先生達の測定数値と現場の被害者の証言を付き合わせると「人間に充分に影響をもたらすほどの巨大なエネルギーを持つ極超低周波空気振動が発生している」と考え得る。

さらに、超低周波空気振動は、「羽根がタワーと重なる時の空気圧縮」の際に発生するという低周波音症候群被害者の会の調査分析報告もある。

と言うことで、風車被害は極超低周波空気振動の影響が大きいと考えるのだが、一方、被害者の話では、百数十Hzの騒音もするという。この騒音ならほとんど誰にも聞こえるはずだ。それは同じメーカーの風車でも一つ一つ違うらしい。と言うのは、風車は同じ会社の同じ製品でも全て手作りであるため製品にバラツキが出る事により微妙に異なるようである。だが、これを明確に示す測定は入手できていない。


2.低周波被害の共通点

低周波音被害には様々有るが、最もミクロでこのところ急増しているエコキュート被害は、騒音源の音圧は極めて小さく、その影響範囲も隣家くらいである。少し広げてもあくまで近隣騒音レベルの話しであり、個人の聴覚障害・異常とまでされ、個人的、個別的問題として処理されるか、黙殺され、最終的には「参照値」で切り捨てられてしまい、現在のところ全く為す術がない。

風車被害の騒音規模は大きいが、流石にタワーの隣に住んでいる人はいないので「間違いない」様な被害とはならず、風車を住宅から200〜250mは離すという事で数値的には確実に「参照値」で切り捨てる事が出来るレベルに“整合性”が当初から計られていることは確かであろう。

しかし、風車被害者には申し訳ないが、”幸いに”と敢えて言うが、風車被害は、「あなたの家一軒ではない」と言うことである。もしこれが仮に500m以内にでも風車被害を訴える人が「あなた一人」であったとしたら、間違いなくエコキュート被害者と同じ運命を辿るであろう。そして、「参照値」は絶対的な自信を持つであろう。

だが、神仏もそこまでは無慈悲ではなかった。風車ができてから同一地域に、複数の被害者が存在するのである。この事実は、“聞こえる、聞こえない“を根拠とする「参照値」では「如何としても言いくるめ難い」被害であると言うことである。そして、これ即ち、低周波被害に“聞こえる、聞こえない“基準の「参照値」を当てはめること自体が根本において間違っていると言うことの証でもある。

しかるに、(一応、低周波音問題に限っておくが)無知蒙昧な静岡地裁下田支部は、伊豆熱川(天目地区)CEF風車建設禁止仮処分に対して、被害の現実を無視した疑似科学的な「参照値」を根拠として、“「低周波音問題対応の手引書」(平成16年6月環境省公表)に示されたG特性音圧レベルについての「心身に係る苦情に関する参照値」92dBをいずれも下回ったので、本件事業による低周波音の影響は軽微と評価する”とし、問題なしとしている。裁判に於いては当面この判決が踏襲されるであろうから、風車騒音問題の訴訟は「参照値」の本質を問うことなくしては、当面、時間と労力の無駄と言うことになろう。

 もちろん、「聞こえない音で騒音被害はない」と言う専門家の理論からすれば”NO PROBLEM=全く問題無い"ことであろうが、拙文「脳と音」の考えからすれば、充分に被害が生じる可能性が有るわけで、現実の被害者の存在を、一見科学的な理論を掲げて否定し、それに当てはまらなければ、極めて非科学的な論法の「気のせい」として否定しようと言うわけである。これを疑似科学、似非科学という。


3.騒音継続時間

「聞こえもしない風車音などでグダグダ言うな」と言う風車の音など聞いたことのない人間の風車賛成派の意見が大勢だが、彼らとて、自動車のアイドリングも数分なら気にならないが、8時間も夜中に家の前で続けられていたらウザイと思うであろう。ましてやこれが毎日続いたとしたら殺人事件に発展するかも知れない事は、これまでの多くの騒音に係わる殺人事件により証明されている。即ち、この「ウザい音を長時間”聞かされる”」という事が、低周波音被害において、重要な要因になると考えている。

風車騒音は風の具合さえ良ければ、理論的には、24時間365日継続する事になる。実際には、日本では30%程度稼働すれば上の口と言うことらしいので、単純に計算すれば一日当たり8時間という言うことになる。実に毎日8時間稼働するエコキュートの場合も、“稼働率”はちょうど30%と言うことになる。

被害者にとっては、風車が仮に今止まっていても、「いつまた動き出すか」「次の瞬間には動き始めるかも知れない」と思うこと自体が、これまでも述べているように、“コントラビリティ(支配権)の欠如=自分ではどうしようも無い”という心理的抑圧感をもたらす。被害者はこの抑圧感から風車が無くならない限り解放されることはない。これはエコキュートの音においても「今夜もまた聞こえる時間になるのでは」と思うこと自体が、心理的抑圧感を募らせるのである。

こういった考えは、低周波音被害の原因をあくまで「騒音源の存在に問題が有る」とする人たちからは排除される傾向にあるが、最近、低周波音の長期暴露による影響は、心理的要因に加え、生理学的にも有ると言う、被害者の意識感覚に近い生理、医学的研究が海外で明らかにされつつある。それは主に2000年以降に発表されており(後述)、ちょうど、海外での風力発電被害の広がりに連動しているように思われる。残念ながら、もちろん、依然日本に於いては何ら目立った研究はなされていない。

 いずれにしても、人間性を全く無視した単純な理工学的な見地からだけでは決して解明できるはずのモノではないことは明白なのだが。


















風力発電メーカー世界10

4.海外の風車

 極めてミクロな風力発電の話しをしているのだが、ここで、一気に、本来風力発電はこういったレベルの話しで進んでいるはずのマクロの世界レベルの話しをチョット見て見たい。もちろん詳細で的確な情報と分析はそれなりのサイトを参照してもらえば言い訳で、素人がとやかく言う隙間はないので、自ずと野次馬的に覗いて見るしかないのだが、中々興味津々たるモノがある。

 世界的な風力発電コンサルタントのBTM Consult ApSの予測では2007年から2012年までの風力発電発展予測は20,000MWが50,000MWの2.5倍になると予測し、大きなビジネスチャンスが有るとしている。要は「風力発電は儲かりますよ」と言うことである。
 発電機器の世界的シェアとしては右図のように、デンマーク、スペイン、ドイツのヨーロッパ三強が70%近くを占めており、それにアメリカ、インド、中国が食い込むと言う図式のようだ。因みに日本唯一の大型機器メーカの三菱重工は「その他」の仲間である。

 上記のことを調べていたのが土曜日の夜。そして、昨晩(08/05/31)「篤姫」を見ていた流れで、ダラーっとNHKスペシャル「低炭素社会に踏み出せるか〜問われる日本の進路〜」を見ていたのだが、シーメンス(ドイツのメーカーのはずなのだが、上記の資料ではデンマークとなっているが…)の工場で風車がバカバカ造られ、それが広い工場用地に二本がセットになってダーッと並んでいるのを見た当たりからぐんぐん見入ってしまったのだが、私的には誠に時宜を得た番組であった。

  CO2削減・地球温暖化防止運動そのものは、ここまで、大政翼賛会的に従わないような輩は非国民であるような雰囲気になると、個人的には返って眉唾なのではないかと思ってしまうのだが、それを一大ビジネス・チャンスとしてしまう欧州の手腕には恐れ入るばかりである。確かにドイツは数年前からせっせと「環境先進国」を大々的に標榜し、今や「低炭素社会」のリーダーになってしまったわけだ。

 日本の風力発電メーカーの雄、三菱重工によれば、「欧州(ドイツ・デンマーク・スペイン)では、環境保護(理念)と産業育成(実利)の両観点から、政府が風力開発に積極的にコミットすることで、爆発的な導入拡大に成功した」これらの国では既に、以下のような問題が浮上してきているという。

@ 環境公害顕在化(騒音・景観・フリッカー)
A 機器トラブル(増速機など)
B 送電系統への悪影響
C 電力料金の高騰の恐れ
D 好風況の風車適地の蕩尽

 @Dは風車を建設できる地域の急激な縮小、Aは風車の製造コストと設計難易度のアップ、BCは風車導入の社会的コストの増大を招いた。このため、新規の風車建設が大幅に制約され、ドイツの新規風力導入量は、1996 年以来初めて前年度より減少、今後も軟調予想である。そして、この状況を打開する対策は次の3つで、デンマーク、スペインでも、事情は同様である。

 まー、風車被害者がギャーギャー言うのは@のことに限られるのだが、これら諸問題に対し、メーカーとしては

@ 風車の大型化
A 洋上風力開発
B アメリカ・アジアへの進出(輸出シフト)

 と言う、方策をとる事になるらしい。
 
 風力発電はビジネス的には、”「国内の短期間で済む小規模な風力開発」という従来の風力市場が、「輸出を含む長期間に渡る大規模な風力開発」に質的に変化したことを意味している。風力ビジネスは国際的に巨額の資金が動くビッグビジネスに変身した。”と言うことで、「鳶が鷹を生む」どころか「ラドン」並のデカイモノを生んだと言うことであろう。確かに環境ビジネスは「第三次産業革命」となる可能性を持っている。でも、以前はコンピュータがもたらす世界と言っていたような気もするが…。

 一方、「風車を建てる条件」として、上記の「風車の基礎知識」によれば、

@強く安定した風が吹く (年平均風速6m/s以上)
A風車ナセル・ブレード等を運べる幅広の道路
B発電した電気を運ぶ送電線が近くにある
C広い敷地と安定した地盤
D環境(希少鳥類の有無)・法律(公園法など)上の制限がない


 等と言う、考えれば素人でも考えつきそうな事なのだが、では、「なぜヨーロッパは風車が多いのか?」では

@風車に優しい気候風土。
A地形が平坦。風をさえぎる山がないので安定した風が吹く。デンマークの最高標高は173m。山どころか丘さえない。
B風車の長い羽根を運ぶのも簡単。
C1年を通して偏西風が吹く。風向きもほとんど変わらない。風車の向きを変えなくていいので、制御用のコンピュータがいらない。
D風車を壊す台風や強い雷がない。

 と、デンマークの山の話しは知らないが、中学程度の地理の知識で理解できる。

 で、日本はどうかと言えば、

1. 風車には厳しい気候風土
 @普段の平均風速は大きくないのに、台風の時だけ猛烈な突風が吹く。
 A山がちの地形なので、風の速度と向きの変動が大きい。
 B北陸地方には、「冬季雷」と呼ばれる特殊な強い雷がある。
 C北海道、東北、九州などには、風の強い地域が多い。

2. 社会条件も不利
 @人口密度が高いので、風車を建てる広い土地の確保が難しい。
 A島国なので周囲と電気の融通ができず、欧米に比べて送電系統が弱い。
 B末端の弱い送電線には風車を繋げない。
 C曲がり道の多い山岳部や、歩道橋や交差点のある都市部では、風車の長い羽根は運びにくい。

 と、やはり素人でも想像できるように無茶苦茶逆境ばかりである。それなら風力発電など止めてしまえば良いと思うのは素人の浅はかさで、地球温暖化阻止は置いておいても、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)「世界の風力発電導入状況の報告、伸びは順調か」によれば、既に日本は2003年度の合計導入量においては、ドイツの1/20以下に過ぎないが、世界8位、伸び率では世界5位の「紛う事なき風力発電大国」の仲間入りをしているのだ。

 恐らく、日本に風力発電は必要で、関係者は、風力発電導入の緊急且つ必要さが何も解っていない素人のアホが何を言っているとと思っているだろうが、(いやこんなサイトは見ていないだろうから思いもしないだろうが)関係者の困ったクセとでも言おうか、オリンピック並に、何でも入賞、できればメダルを取りたいと思ってしまう国である。
 でも、多くの不利な条件である、背が低く、足の短い日本人選手がバスケットボールでアメリカには勝とうとするようなモノで、無駄な足掻きのような気がするのだが…。何でも勝ちたい日本なのかも知れない。仮にこれらの自然条件をクリアーするような風車を造ったところで、間違いなく割高になり、輸出競争力に於いて完全に負けるはずである。
 オリンピックで参加しない種目が有っても良いではないか。それとも参加することに意義が有るのであろうか。だが、参加する限りは最低入賞、できればメダル、もっとできれば色も選びたいと言うことなのか。しかし、多分日本の風土で培われた風車は世界的に最高レベルのもになるであろうから、やはり輸出でバンバン儲けるのが正しい道であろう。

 まー、それはそれとして、本当に風力発電は必要なのであろうから、三菱重工も言っているように洋上発電に活路を見出すしかない。これはこれで日本では台風対策が大変だろうから、仮に高くてもアメリカでも売れるはずだ。でも、やはり日本ならではの独自のエネルギー資源を考えてほしいモノである。

 と、話しが大きく外れてしまったので本題に戻そう。


5.海外の風車被害の研究

 海外での風車被害の研究云々と言う話しは、風車被害を訴える”Wind Turbines - Noise, Health and Human Rights Issues「風力発電-騒音、健康と人権問題」”が米国国立医学図書館、国立衛生研究所のデータベースで関係文献を調査した、"Noise and its effects on health: a brief bibliography「健康に対する騒音影響:参考文献一覧」"を見れば一目瞭然である。

 これは2007年5月付けで出されているが、そこには28件の文献が紹介されている。詳細は各人にあたってもらうしかないが、”概要の概要”としては、内容的には低周波音による、@いらだち A心臓への影響 B不眠 C脳幹への影響 Dホルモンバランスの崩壊に関するモノで、風力発電と直接関係するモノはマダ少ない。国別ではさすがに、環境先進国であり、風車大国のドイツが13件とダントツに多い。それだけリスクも研究されていると考えるべきであろう。次は、スウェーデンの7件で、この2カ国でほとんどを占める。
 因みにあれだけ「低周波音と振動国際会議では出席者数と論文発表数でダントツで活躍している日本はゼロで、低周波音に関する生理、医学的的発表に於いては見るべきモノは何もないと言うことであろう。
 
 これは言うまでもないが、極論すれば、ひとえに、「日本国では低周波音被害の存在は無い」という国策によるもので、被害がないのであるから当然ながら研究する必要はない訳で、よって研究に対する資金は出ず、金が無ければ研究は行われないと言うことである。こう言った視点からすると低周波音被害というのは、科学云々の話しでは全然無く、極めて政治的な話しであり、日本の政治・経済がその本質に於いて如何に貧困であるかを物語るのである。

 それは、もちろん低周波音問題など出すまでもなく、昨今の後期高齢者医療制度を見れば明らかなことで、これは単に「年寄りは死ね」と言うことではなく、「貧しい年寄りは死ね」と言う厳しい国であるから、そんな国で、風車だ、低周波だなどと喚いたところでまるっきり聞く耳持たないのは当然であろう。

 しかし、これまで低周波音被害についての研究は、海外にも確かにほとんど研究がなかったようなのは、上記の研究の殆どが2000年以降のモノであることから、海外の風車の普及と共に風力発電被害が低周波音と関連していると言うことが明らかになってきたからであろうことは想像に難くない。これらの研究が進めば、いずれ低周波音被害そのものが白日の下に曝されるはずだ。

 しかし、そうなれば日本の低周波音研究者にとって大きな汚点となるであろう。以前にも述べたが、既に研究の素晴らしい”素材”がずっと以前から存在したにも拘わらず、御用学者的存在を享受し、被害を否定し、放置し続け、純粋な研究に於いてはもったいない千載一遇の機会を失ったことである。この怠慢は、何時かは世界的にバレルことであり、世界の科学界に良心が有れば、日本の低周波音学者は糾弾されざる存在となることであろう。

 勢いで、結論が先になってしまったが、論文に戻ると、本当は全部を紹介したいのだが、日本語にするのに随分と時間がかかりそうなので、その中から、”日本の専門家が良くやる”ように“海外情報の都合の良い、美味しい部分だけ”をひとまず紹介する。


@アメリカは低周波音の人間に対する影響の研究には遅れていたが、風車はその機構から航空力学的に直ぐさま対応し、解明している。…、で、オハイオ、ドイツ、そしてヨーロッパの多くの地域で、風車の騒音レベルは夜間環境としては35db(A)である。
National Wind Watch; Save Western New York

Aコロンビア大学のニーナ・ピエールポン(Nina Pierpont)物理・医学博士は、「風車の継続的騒音は、不眠症、頭痛、めまい、極度の疲労、怒りっぽさ、集中力の欠如、ストレス、吐き気、種々の胃障害、耳鳴りを生じさせ、結果として慢性的な立腹症状を呈する」として、これらの症状を“Wind Turbine  Syndrome”「風車発電症候群」とした。
"Wind Turbine Noise Syndrome" (Pierpont, 2006).

Bフランス国立医学アカデミー(Chouard 2006)は慢性的な騒音への暴露からの高血圧症と心臓血管の病気を含む潜在的な神経生物学上の反応を“chronic sound trauma”慢性騒音精神的外傷」と称した

C風力発電ファーム(2007)からの潜在的な健康被害についてのカンザス立法府研究部門リポートは、「風力発電地帯の公衆衛生への否定的な影響は、低周波騒音(LFN)てんかんと癌をもたらす可能性がある」としている。

DVADVibro-acoustic Disease振動音響病」と関連した徴候は、腫瘍構成(癌?)を潜在的にもたらし、心臓血管の構造と細胞の構造の突然変異誘発性の変化をもたらすマリアナ・アルベス・ペレイラ(2004; 2007)


 他の論文に関しては全く未知であるが、Dに関しては2004年の論文を全訳したので何とも懐かしい。特に彼らの論文は「低周波音と振動国際会議」においても全く無視されていたと言う話しであるから、今や風力発電被害と関連づけられ、その立場を得たようだ。

 他の「慢性騒音精神的外傷」は、私自身低周波音被害を「騒音に対するトラウマ的状態」と思っていたので納得するところ大であり、「心臓血管の病気を含む潜在的な神経生物学上の反応」という点はこれまで多くの被害者に接している方から示唆のあった、「低周波騒音被害者に遭わない同居者は心臓病乃至は循環器系の障害に犯される」と言う経験則を裏付けている。
 とまー、何とも我田引水的な紹介であるが、海外の論文紹介などと言うモノはこんなモノである。引用に疑義がある方は直接あたっていただいて結構である。これらの論文の多くは反風車団体のHPである“National Wind Watch「風力発電国際監視委員会」”のサイトからいける。「風力発電国際監視委員会」と言うのは私の勝手な訳であるが、内容からすれば多分こんな意味あいになるはずである。
上記の写真はこのサイトにに寄せられているアルバムリストから拝借したモノである事を日本語で断っておく。

 そして、忘れてならないのは、VADと風車音被害をドッキングさせた英国の医師アマンダ・ハリー(Amanda Harry)の“Wind Turbins, Noise and Health風力発電、騒音と健康(2007.2)”の存在である。これを読めば風車による低周波音被害が無いなどとは到底言えないはずで、なおかつその原因の大半は低周波音(LFN)に依るモノである事が解るはずである。アマンダ氏がマリアナ氏の「空港での低周波音による健康被害」の論文に着眼した点は素晴らしい。
 ただし、マリアナ氏は低周波音を400Hz以下などとしているのと同じように、アマンダ氏もほとんど音圧とか周波数の数値については問題にしていない。ここらが日本の低周波音の専門家である理工学者的には問題外なのであろうが、本来の「被害ありき」と言う人間中心の見方からすれば、風車が原因であることこそ重要であり、まずはその事実こそ確立すべきことであり、その風車の音が何ヘルツで何デシベルであるかなどと言うことはその先の、先のことであるはずだ。

現在の日本には、風車被害の事実を認める知見さえない。環境省はこの問題を既に日本騒音制御工学会に丸投げする形をとっているわけで、詰まるところは、問題点は理工学的にブチブチに細分化され、被害者と言う人間としての視点は消え、「参照値」と同一線上で処理されるのでは無いかと思う。
 しかし、この問題は単純に日本国内だけの問題ではなく、海外でも無視的な状況が続く今、国際的知見を重んじる日本としては、決して軽々な結論は出さないと思う。
と言うことは結論は当面何も出さず、「なにもしない研究」がしばらく続くのであろう。


ひとまずのまとめとして、両被害の対照表を示しておく。

低周波音被害 風車被害
@ 騒音源 エコキュートから新幹線まで多種多様(主にコンプレッサー、モーター類) 風車(風切り音、歯車、冷却装置、変圧器、タワー自体の共鳴、振動)
A 被害の歴史 30年以上前から(1970年代?) 大型商用風車が人間居住地近くに出現してから(本格的には1990年代?)。被害の研究が出始めたのは2000年以降
B 被害症状 低周波音症候群 風車騒音症候群(日本では“風車病)、“Wind Turbine Noise Syndrome”2006)
C 被害発生場所 比較的静かな住宅地 広い空間が必要と言う立地条件から必然的に絶対的に静かで居宅が少ない
D 被害者 一家に一人、地域で一人と言う場合が少なくなく、全国的に点在する 一家に複数の場合もあり、地域に複数存在。世界的、全国的にも風車地域にのみ複数偏在。
E 騒音源の主騒音質 20〜40Hz-40〜60dBの機械的唸り音 10Hz未満-50〜70dBの超低周波音と100〜400Hz-50〜65dBの可聴域騒音の二本立て
F 問題の取り上げられ方 日本の被害者のみ 景観問題を含め世界中の風車存在地域
G 騒音継続時間 継続的、断続的に基本的には長時間・長期間だが、一日8時間とすれば時間的には全時間の30% 風況さえ良ければ一日中年中365日なのだが、利用率(フル発電との割合)は日本では30数%。稼働率(風車が、1KWでも発電した時間の割合)は75%以上。回っている時間はそれ以上
H 近隣関係 被害者、加害者が特定少数のためいわば一対一 風車事業者(会社・自治体など)対近隣住民
I 自治体の関与 無い 建設に関して一個人の所有地では済まないし、広範な影響が考えられるので無関係では有り得ない
J 行政の関与 民民の事であり基本的に関与しないが、まずは門前払いを喰わせ、次には「測定器がない」と言い、挙げ句は「我々は素人で解らない」と居直る。 「知らなかった。手の打ちようがない」と逃げる。挙げ句は「一体どうしろというのだ」と居直る。
K 参照値 照らして問題無し 照らして問題無し
L 騒音の環境基準 照らして問題無し 基準は地域によって異なるが、40〜50dB。

081006,080601


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