風力発電騒音とエコキュート騒音 4/7
新しい低周波音被害


 4.「参照値」は風車騒音にも役に立たない

 などとノンビリしたことを考えていたら、伊豆熱川(天目地区)風力発電では、既に裁判に到り、 「風車建設差止め仮処分の申立て」が却下されていた。事実は私の予想の先を行っていた。

 この申し立ての問題点は次の3点になるようだ。

@地元自治区、財産区の、被害は有っても自分のことではないと言う無責任さと、補助金、未利用地の”有効活用”と言う、金ほしさから発する低周波音問題に対する無知に基づく、新入居者を×××桟敷に置いて事業を進めた欺瞞的行為。
A景観の破壊。
B低周波騒音被害を完全黙殺するという根本的詐欺行為に加えて、事業者側の「参照値」の意図的、曲解的、我田引水的引用。


 詳しくは伊豆熱川(天目地区)風力発電連絡協議会をご覧頂きたいが、風車騒音問題がもつ要素は既に”勢揃い”している。。

 この中で@Aについては敢えて触れず、このサイトの主旨であるBについてのみ考えたい。
 
 ここで一番問題になる点は「心身に係る苦情については1/3オクターブバンド別の音圧レベル及びG特性音圧レベルの参照値がそれぞれ示され(このうち、G特性音圧レベルの参照値は、20ヘルツ以下の超低周波音による心身に係る苦情の評価のみに関するものとされている。)、これらの音圧レベルを測定した結果と参照値を比較して、評価を行うものとされている」とされているにも拘わらず、上記サイトにあるように事業者側が示したのは、「低周波音環境影響評価はG特性音圧レベルの測定評価をしただけで、1/3オクターブバンド音庄レベルの測定評価をしていない」という点である。

 元々被害者の実情を反映していない「参照値」をもってしても、「参照値」そのものが「低周波音の苦情には,…1/3オクターブバンドで測定された音圧レベルを…参照値と比較し,測定値がいずれかの周波数で参照値以上 であれば,その周波数成分が苦情原因である可能性が高いと判定されます.」という、端的に言えば単に低周波音被害の原因がどの周波数に有るかを見るだけの、あくまで、低周波音の評価に際しての単なる”ツール”であり、「参照値」自らが述べているように基準値、規制値の類ではないのである。

 従って、仮に逆にこれを超えていても”騒音を規制する力”などは「参照値」には微塵もない単なるツールなのだ。即ち、風車の騒音値が「参照値」を越えようが一切「違法」と言うことにならないのである。そして、騒音値が、もし、「参照値」を越えていなければ(実際にはこの場合がほとんどなのだが)、それは「全く問題無い」と言うお墨付きを公的に頂いたようなモノで何とも事業者にとってだけ都合の良い代物なのだ。

 しかし、百歩いや千歩譲って「参照値」を使うとするなら、それは最低限1/3オクターブバンド音庄レベルの測定と周波数分析とセットでなくてはならない。そして、現実に被害が出ていて、「参照値」が本当に役立つツールなら、1/3オクターブバンド音庄レベルの測定値において「参照値」を上回る数値がどこかの周波数に無くてはならないはずである。

 そして、現実に複数の被害者が存在する現場における測定において、それが無いとすれば、


@「被害者がウソを言っている」か、
A「参照値が間違っている」か、
B「(参照値の)例外」のはずだ。


 汐見氏の被害現場でのこれまでの測定データでは「参照値」には被害との相対に於いて余りに「例外」が多いのだが、それにも関わらず周波数分析もせず、一括りに「G特性等価音圧レベルの参照値である92dBを大幅に下回る68dBから73dBの範囲に収まる」等と言うインチキ「参照値」をさらに拡大誤解釈した裁判官の「戯言」を裁判で聞かされるとすれば、「参照値」以下の音圧で苦しみ、”1つで良いからどこかの周波数で「参照値」を超えているのではないか”と虚しい期待を抱いている風車以外の現実の低周波音被害の多くの低周波騒音被害者は全部報われることのない虚しい努力をしていることになる。即ち低周波騒音被害は現実として何一つ無い事になってしまう。裁判などやるまでもないことになってしまう。

 しかるに、環境省が風車被害現場での測定をやらせ始めたと言うことはこれまでの「C測定法がよろしくない」、と言う事なのかも知れないが、マニュアルに従って測定しても色々あるのかしら? もしそうであるとするなら測定値のデータ疑惑などが生まれてくることになるのだが、元々測定値がどうであろうと被害の存在という現実がある限り、元々測定する度に異なるのが当たり前なのだから、目くじらを立てることもないのだが。


 改めて「92dB」とは一体なんぞやと思い、見直してみれば、その数値は、以下の10Hzに於ける「参照値」に一致する。要は表に載っている音圧レベルの一番大きい数字だ。

2.2.2 心身に係る苦情に関する参照値

 しかし、G特性では10Hzを±0として各周波数によりdB数をプラス、マイナス修正しているので、逆に補正を戻してみると、下記のような数値になる。従って、「92dB以下なら低周波音被害は無し」等と言う事は、G特性そのものはもちろん、低周波音被害の原因周波数を求めようという「参照値」そのものの存在自体が全く無意味なモノとなり、自らの存在自体を否定する事になる。

中心周波数(Hz) 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 80
G特性補正(dB) 0 4 7.7 9 3.7 -4 -12 -20 -28 -36
心的参照値(dB) 92 88 83 76 70 64 57 52 47 41
逆補正(dB) 92 84 75.3 67 66.3 68 69 72 75 77


 もちろん、これまでの低周波音問題に関する経緯を考えれば、参照値は結果的に「低周波被害者の切り捨て」を意図したとしか考えられないのだが、それにしても、92dB以下なら周波数分析をするまでもないと言う様に法律の専門家であるはずの裁判官が、低周波音に関して無知であれば、簡単に誤解させることがで切るような最悪のツールである「参照値」を更に無知的解釈、或いは歪曲的に解釈するとすれば、詐欺的どころか詐欺行為そのものが行政はもとより法曹界でも通用するとすれば、低周波音被害者は全く救われない。現実は当にそうであるが…。

 もちろんそれが「参照値」の狙いとすれば、当に思惑通りの素晴らしい代物である


 しかし、既に裁判の場で「92dB以下なら問題無し」などと言う誤認識も良いところの考えが一人歩きしているのであるから、さすがの参照値作成者も本来なら「チョット待って」と言わなくてはならないはずだが、そんな話しが無いところを見ると、現実には「参照値」は既に、作成者の手を離れ、”低周波騒音被害者切り捨て値”として、

@無知(被害者、行政、裁判官等)からであろうと、
A意図的な悪意(行政、業者、事業体等)からであろうと、
B意図的な怠慢(行政、自治体、裁判官等)からであろうと、

 一切関係なく、バッタバッタと低周波音被害者をなぎ倒している事になる。被害者の苦しみを考えたとき、作成者は地獄の業火に焼かれ続けなくてはならないはずだ。


 だが、こういった現実を踏まえての事であろうかどうかは解らないが、一応、日本騒音制御工学会における、「移動音源等の低周波音に関する意見募集」(これは既に08/02/15で終了し、既に、日本騒音制御工学会のリンクから切れている)において、ご意見等を募集する主な項目 として、

(1) 手引書適用対象外の発生源(変動的あるいは衝撃的な固定発生源や移動発生源、風力発電施設等の新たな発生源等)からの低周波音苦情の有無と現行の対応方法、対応が困難となる原因
(2) 上記発生源について、寄せられた苦情が低周波音によるものか否かの判定方法
(3) 海外における衝撃的、変動的な固定発生源や移動発生源、風力発電施設等の新たな発生源等からの低周波音の測定・評価に関すること

 そして、さらに、「これらの移動発生源等からの低周波音は、発生形態や周波数特性等、手引書が対象としている固定発生源から発生する低周波音と異なる点も多く、移動発生源等からの低周波音を測定・評価するにあたっては、手引書で用いた対応方法をそのまま用いることは難しいと考えられます。」 と、しており、「風車は移動しないじゃん」などと考えていたのだが、どうも、ここで言う「移動発生源」というのは「発生源が移動する」という飛行機などを考えていたのだが、どうもそうではなく、「騒音の音圧or周波数が変動する発生源」と言うことらしい。なんともわかりにくい言い回しをするモノだ。

 即ち、現在の「参照値」は風力発電施設には使えません、と一応「チョット待て」をしているのだが、現実はお構いなしだ。

 もちろん”移動発生源”の典型であるジェット、ヘリの轟音が跋扈する基地騒音にも使えませんと言うことを意味している。それは、「現実的に92dB等と言う轟音が出るはずはない」として決めた「参照値」なのだが、「事実は論より奇なり」で、そこでは「参照値」を超えてしまった訳で、これこそ文字通り「参照値」の例外とするより仕方なかったからである。

 風車低周波音被害は「聞こえない音では被害はない」と言う、机上の理論では最早、現実の被害事実を否定しきれない訳で、「聞こえない音での被害」と言う低周波音被害の本質に触れる問題であろう事は想像に難くない。ただ、"専門家"の反論としては低周波音や超低周波音ではなく、あくまで原因は可聴域の音であると等と仰っているが。

 エコキュートなどの隣人同士の個人の訴訟では被害者達の「事なかれ主義」から現実の訴訟問題として戦い抜くことはなかなか難しいが、集団的に被害者が存在する風車騒音問題はそれが可能であろう。是非とも、訴訟の場で、低周波音被害の本質を可能な限り明らかにしてほしいモノである。


クリックで拡大 と言ったわけで、新しい低周波音被害である風車やエコキュートの騒音では、“これまでの騒音や低周波音の理論=「参照値」”に照らして(図3)、「低周波音によって被害が出るはずはない」と言う、低周波音問題に関して恐らく”法的には”完璧な代物なのだ。

それはこの風車問題に関して、田原や伊方で現地調査された汐見氏をして、「風力発電の音は低周波音症候群の考えで律するのは間違いのようです」とまで言わせしめている点からも伺われる。

エコキュート被害も風力発電被害も比較的静かな環境に存在し、他の騒音によるマスキング効果はほとんど無いという点も特徴的である。
 改めて、図3を見ると、風車被害現場では40dB50dBの低周波音、超低周波音が測定されており、エコキュート被害現場での25dB50dBの騒音と比べると、音の理論からすると5倍近い大きさの騒音と言えるのだが、風車騒音の場合、距離による減衰があるのだが、それを考慮しても、相対的にはエコキュートより明らかに大きな音圧レベルで、それなりの影響を広域にもたらしている可能性は十分ある。


伊方町のHP「よろこびの風薫るまち」の「伊方の風力発電事業紹介します」の「事業目的と効果」には、伊方の風力発電事業がもたらす利点として、以下の項目が謳われている。

1)地域経済刺激 起業投資効果、観光消費の拡大、売電・町税収入の発生。

2)地域個性形成 町を語るシンボルづくり

3)国策への寄与 地域環境保全、新エネルギー導入の推移

確かに、「事業目的と効果」はそれなりに達成されたであろう。しかし、風車地域の住民のそれまで延々と続いたであろう静かな生活は完全に侵された。自治体も「そんなはずではなかった」としか言いようが無いはずだ。


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